事務所通信2011年9月

事務所通信

2011年9月号 『組織再編成に係る行為計算否認』

 近年、合併などの組織再編は頻繁に行われています。
 
 2001年に導入された組織再編税制に関して、行為計算否認規定により否認されたケースはないと言われていましたが、最近は税務調査が厳しくなってきており、否認されたケースもあるようです。

 今回は、『組織再編成に係る行為計算否認』をテーマに書きたいと思います。

1.『行為計算否認』とは
 『行為計算否認』とは、「租税負担を不当に減少させる結果」となる行為計算が行われた場合、課税庁が現実に行われた行為計算を想定される「通常の行為計算に引き直して課税する」ことをいいます。

2.『組織再編成に係る行為計算否認』
 組織再編成に係る行為計算否認は法人税法132条の2に規定されていますが、税務署長は、合併等に係る法人の法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合に、

  • 合併等により移転する資産及び負債の譲渡に係る利益の額の減少又は損失の額の増加
  • 法人税の額から控除する金額の増加
  • 法人の株式(出資を含む。)の譲渡に係る利益の額の減少又は損失の額の増加
  • みなし配当金額の減少
  • その他事由により法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの

があるとき、否認する可能性があります。

 具体的には、立法時の資料に以下のようなものが挙げられています。

  • 繰越欠損金や含み損のある会社を買収し、それらを利用するために組織再編成を行う。
  • 複数の組織再編成を段階的に組み合わせることにより、課税なしに、実質的な法人の資産譲渡や株主の株式譲渡を行う。
  • 相手先の税額控除枠や各種実績率を利用する目的で、組織再編成を行う。
  • 株式評価損を計上したり、株価を下げるために会社分割等を行う。

3.Y社の事例
 Y社が『組織再編成に係る行為計算否認』規定により否認され、提訴しているようですが、時系列は、以下のとおりです。

H20.12 Y社の社長がA社の副社長に就任
H21.2 Y社がA社を100%子会社化
H21.3 Y社がA社を吸収合併

 買収価格に繰越欠損金の引継ぎによる節税効果が織り込まれていたなどの理由で、ヤフーの社長がA社の副社長に就任したのは、繰越欠損金の引継ぎの要件を満たすための形式的なものに過ぎないと、法人税法132の2を適用し、繰越欠損金の引継ぎを否認したようです。

 副社長に就任してから何もしていなかったなど形式的に副社長になったにすぎないのであれば否認されるべきかもしれませんが、実態はどうだったのでしょうか。

4.最後に
 組織再編については、税理士等を交え、慎重な検討がなされ、税制適格の要件は当然満たしていると考えられます。
 
 しかしながら、個々のスキームは問題ないとしても、スキーム全体で考えると、単なる租税回避スキームにすぎない可能性があります。

 木を見て森を見ずにならないようにしたいものです。

2011年9月29日 國村 年

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