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事務所通信2024年9月

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2024年9月号『地積規模の大きな宅地!』

面積の広い土地があり、多額の相続税がかかるのではないかと心配されている方がいらっしゃるかもしれません。ところが、面積が一定規模以上の土地に対しては、要件を満たせば、減額することが可能なのです。

そこで今回は、『地積規模の大きな宅地!』について、書きたいと思います。

1.地積規模の大きな宅地とは?

地積規模の大きな宅地とは、三大都市圏においては500㎡以上の地積の宅地、三大都市圏以外の地域においては1,000㎡以上の地積の宅地をいいます。

ただし、以下の(1)から(4)のいずれかに該当する宅地は、地積規模の大きな宅地から除かれます。

(1) 市街化調整区域に所在する宅地
(2) 都市計画法の用途地域が工業専用地域に指定されている地域に所在する宅地
(3) 指定容積率が400%(東京都の特別区においては300%)以上の地域に所在する宅地
(4) 財産評価基本通達22-2に定める大規模工場用地

三大都市圏とは、以下の地域をいいます。

(1) 首都圏整備法第2条第3項に規定する既成市街地または同条第4項に規定する近郊整備地帯
(2) 近畿圏整備法第2条第3項に規定する既成都市区域または同条第4項に規定する近郊整備区域
(3) 中部圏開発整備法第2条第3項に規定する都市整備区域

2.地積規模の大きな宅地の評価の対象となる宅地

地積規模の大きな宅地の評価の対象となる宅地は、路線価地域に所在するものについては、地積規模の大きな宅地のうち、普通商業・併用住宅地区および普通住宅地区に所在するものとなります。

また、倍率地域に所在するものについては、地積規模の大きな宅地に該当する宅地であれば対象となります。

3.評価方法

(1)路線価地域に所在する場合

評価額
=路線価×奥行価格補正率×不整形地補正率などの各種画地補正率×規模格差補正率×地積(㎡)

(2)倍率地域に所在する場合

以下に掲げる①の価額と②の価額のいずれか低い価額により評価します。

その宅地の固定資産税評価額に倍率を乗じて計算した価額
その宅地が標準的な間口距離および奥行距離を有する宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額に、普通住宅地区の奥行価格補正率や不整形地補正率などの各種画地補正率のほか、規模格差補正率を乗じて求めた価額に、その宅地の地積を乗じて計算した価額

4.規模格差補正率

規模格差補正率は、以下の算式により計算します(小数点以下第2位未満は切り捨て)。

規模格差補正率
=(A×B+C)÷地積規模の大きな宅地の地積(A)×0.8

上記算式中の「B」および「C」は、地積規模の大きな宅地の所在する地域に応じて、それぞれ以下に掲げる表のとおりです。

(1)三大都市圏に所在する宅地

地積

普通商業・併用住宅地区、普通住宅地区
B C
500㎡以上1,000㎡未満 0.95 25
1,000㎡以上3,000㎡未満 0.90 75
3,000㎡以上5,000㎡未満 0.85 225
5,000㎡以上 0.80 475

(2)三大都市圏以外の地域に所在する宅地

地積

普通商業・併用住宅地区、普通住宅地区
B C
1,000㎡以上3,000㎡未満 0.90 100
3,000㎡以上5,000㎡未満 0.85 250
5,000㎡以上 0.80 500

5.最後に

2018年に新設された、通常の土地より大きな土地については評価減ができるというものですから、適用できるものについてはきちんと適用しましょう。

2024年9月27日 國村 年

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事務所通信2024年8月

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2024年8月号『農地の評価!』

現在、相続税の申告を複数件お手伝いしておりますが、そのうち7~8割の方の相続財産として出てくるのが農地です。

しかし、農地は、相続人の方が思っているより相続税の評価が高いことがほとんどです。

そこで今回は、『農地の評価!』について、書きたいと思います。

1.農地の区分

農地については、農地法などにより宅地への転用が制限されており、また、都市計画などにより地価事情も異なりますので、これらを考慮して、農地の価額は以下の4種類に区分して評価します。

(1) 純農地
(2) 中間農地
(3) 市街地周辺農地
(4) 市街地農地

2.純農地および中間農地の評価

純農地および中間農地の価額は、倍率方式によって評価します。

倍率方式とは、その農地の固定資産税評価額に、国税局長が定める一定の倍率を乗じて評価する方法をいいます。

3.市街地周辺農地の評価

市街地周辺農地の価額は、その農地が市街地農地であるとした場合の価額の80%に相当する金額によって評価します。

4.市街地農地の評価

市街地農地の価額は、宅地比準方式または倍率方式により評価します。

宅地比準方式とは、その農地が宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額からその農地を宅地に転用する場合にかかる通常必要と認められる1㎡当たりの造成費に相当する金額を控除した金額に、その農地の地積を乗じて計算した金額により評価する方法をいいます。

これを算式で示すと、以下のとおりです。

市街地農地の評価額=(その農地が宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額-1㎡当たりの造成費の金額)×地積

上記算式の「その農地が宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額」は、具体的には、路線価方式により評価する地域は、その路線価により、また、倍率地域は、評価しようとする農地に最も近接し、かつ、道路からの位置や形状等が最も類似する宅地の評価額(宅地としての固定資産税評価額×宅地としての評価倍率)を基として計算します。

なお、その農地が宅地であるとした場合において、財産評価基本通達20-2(地積規模の大きな宅地の評価)の定めの適用対象となるとき(同通達21-2(倍率方式による評価)ただし書において同通達20-2の定めを準用するときを含みます。)には、同項の定めを適用して計算します。

また、「1㎡当たりの造成費の金額」は、整地、土盛りまたは土止めに要する費用の額がおおむね同一と認められる地域ごとに、国税局長が定めており、国税庁ホームページで閲覧することができます。

「市街地周辺農地」および「市街地農地」の価額は、「市街地農地等の評価明細書」を使用して評価することができます。

5.最後に

相続税の計算で意外と難しいのが、市街地周辺農地や市街地農地ですので、現地を確認して、慎重に計算しましょう。

2024年8月27日 國村 年

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事務所通信2024年7月

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2024年7月号『相続土地国庫帰属制度の現状!』

土地を相続したものの土地を手放したいと考える方が増加しており、また、土地を望まず取得した所有者の負担感が増しています。

所有者不明土地の発生を抑えるため、相続や遺贈により土地の所有権を取得した方が、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする制度が創設されました。

そこで今回は、『相続土地国庫帰属制度の現状!』について、書きたいと思います。

1.相続土地国庫帰属制度とは?

相続した土地について、「遠くに住んでいて利用する予定がない」、「周りの土地に迷惑がかかるから管理が必要だけど、負担が大きい」といった理由により、土地を手放したいというニーズが高まっています。

このような土地が管理できないまま放置されることで、将来、「所有者不明土地」が発生することを予防するため、相続又は遺贈によって土地の所有権を取得した相続人が、一定の要件を満たした場合に、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする「相続土地国庫帰属制度」が2023年4月27日から創設されました。

2.申請件数

法務省は、相続土地国庫帰属制度の運用状況に関する統計を公開しています。

2024年6月30日現在(以下同じ。)の申請件数は以下のとおりです。

(1)総数2,348件

(2)地目別 田・畑894件、宅地842件、山林360件、その他252件

3.帰属件数

帰属件数は以下のとおりです。

(1)総数564件

(2)地目別 田・畑237件、宅地163件、山林19件、その他145件

4.却下・不承認件数

却下・不承認件数は以下のとおりです。

(1)却下件数10件

(却下の理由)

・8件:現に通路の用に供されている土地

・2件:境界が明らかでない土地

(2)不承認件数17件(1事件1件ではない)

(不承認の理由)

・6件:土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地

・2件:民法上の通行権利が現に妨げられている土地

・1件:所有権に基づく使用又は収益が現に妨害されている土地

・4件:国による追加の整備が必要な森林

・5件:国庫に帰属した後、国が管理に要する費用以外の金銭債務を法令の規定に基づき負担する土地

5.取下げ件数

取下げ件数は、293件です。

(取下げの原因の例)

・自治体や国の機関による土地の有効活用が決定

・隣接地所有者から土地の引き受けの申出

・農業委員会の調整等により農地として活用される見込み

・審査の途中で却下、不承認相当であることが判明

6.最後に

相続したくない土地もあると思いますので、この制度を上手に使いたいものですね。

2024年7月29日 國村 年

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事務所通信2024年6月

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2024年6月号『中小企業投資育成株式会社とは?

『中小企業投資育成株式会社』という株式会社をご存じでしょうか?

おそらく、聞いたこともない方が多いと思いますが、相続制対策や事業承継対策などで使えるのです。

そこで今回は、『中小企業投資育成株式会社とは?』について、書きたいと思います。

1.中小企業投資育成株式会社とは?

中小企業投資育成株式会社とは、『中小企業投資育成株式会社法』に基づき設立された公的な投資育成機関です。

東京中小企業投資育成株式会社(新潟・長野・静岡以東の18都道県)、名古屋中小企業投資育成株式会社(愛知・岐阜・三重・富山・石川の5県)、大阪中小企業投資育成株式会社(福井・滋賀・奈良・和歌山以西の24府県)の3つあります。

ちなみに、株主は、都府県・市・商工会議所・メガバンク・地方銀行・大手生命保険会社・日本取引所グループなどで、監督官庁は経済産業省です。

2.中小企業投資育成株式会社の業務・特徴

中堅・中小企業が発行する株式・新株予約権付社債などの引受けを通じて、優良企業への成長をサポートしています。

投資育成は、自己資金で投資を行っているという性格を背景に、投資先企業の自主性を尊重した友好的・安定株主として、長期にわたり中堅・中小企業の皆様の後方支援を行うため、以下の3つの特徴があります。

・長期安定株主

・経営干渉しない

・良き相談相手

3.利用できる企業の条件

原則として資本金3億円以下の株式会社であること
事業基盤があり安定的な配当を実施できる収益力を有していること
公序良俗に反しない企業、投機的な事業を行っていない企業であること

4.利用後に必要なこと

安定配当の実施(利用前に相談の上決定)
株主総会の開催、投資育成の出席
決算内容、株主総会付議事項の事前説明

5.投資育成制度の活用事例

現経営陣の持株比率が低く、議決権の過半数を確保できていない。株式を買い集める資金もなく、相続発生による更なる株主構成分散も懸念される。

安定株主確保のため、投資育成会社に対して第三者割当増資を実施し、投資育成会社を合わせて議決権の過半数を確保

過去に従業員に株式を持たせていたが、株式を保有したまま退職してしまった。
役員、従業員の議決権比率は合わせても過半数に届かない。

1)社外個人株主の保有株式を自己株式化により整理、2)従業員が株式を保有したまま退職してしまわないよう従業員持株会を新たに組成し、従業員保有株式を従業員持株会に組み入れ、3)自己株式を従業員持株会と投資育成が取得。

6.最後に

先月の従業員持株会と同様、相続税対策や事業承継対策を考えている経営者の方は、投資育成制度の活用を検討してもよいかもしれません。

2024年6月24日 國村 年

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事務所通信2024年5月

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2024年5月号『非上場会社でも従業員持株会を活用できる!』

『従業員持株会』という制度をご存じでしょうか?

聞いたこともない方もたくさんおられるでしょうし、知っていても上場会社で使われる制度と思われている方もおられるのではないでしょうか?

実は、非上場会社でも使えるのです。

そこで今回は、『非上場会社でも従業員持株会を活用できる!』について、書きたいと思います。

1.従業員持株会とは?

会社の従業員(当該会社の子会社の従業員を含む。)が、当該会社の株式の取得を目的として運営する組織をいいます。

2.従業員持株会のメリット

メリットとしては以下のようなものが挙げられます。

<会社>
従業員福利厚生制度の柱となる
従業員に経営参加意識を持たせることができる
株式の社外流出を防止できる
株主からの買取要請に対処しやすい
オーナーの相続税対策に役立つ
<従業員>
財産形成に役立つ

3.従業員持株会のデメリット

一方、デメリットとしては以下のようなものが挙げられます。

<会社>
従業員の資本参加の度合いによってはオーナーの会社支配権が揺るぎかねない
公正に運営が行われないと従業員から不満の声が出る
退会等による換金の申し込みが集中すると株式転売の対応が難しくなる
既存の従業員株主を持株会に吸収できないと株主管理に問題が残る
配当が期待できないと従業員の不信感、不満が表面化し運営が困難になる
<従業員>
倒産の場合、資産も失うことになる

4.従業員持株会の設立形態

設立形態としては、以下の①から③が考えられますが、③民法上の組合として設立することが多いと考えられます。

民法上の組合
法人格のない社団
任意団体

③民法上の組合の特徴は以下のとおりです。

法的性格 民法667条の規定に基づく団体
法人格を持たない
税務上の

取り扱い

法人税の課税なし
会員個人が受ける
配当金は配当所得(配当控除可)
採  用 ほとんどの会社で採用

5.従業員持株会の参加者

会社の正社員を参加者とするのが一般的だと考えられます。

なお、子会社の正社員も参加させることも可能です。

6.最後に

上場会社のみならず、非上場会社でも従業員持株会は使えます。

従業員に報いたいと考えていたり、相続税対策を考えている経営者の方は、検討してもよいかもしれません。

2024年5月28日 國村 年

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事務所通信2024年4月

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2024年4月号『経営者保証を提供しない3つの制度!』

最近、経営者保証を外すことが話題になっています。

そのような中、2024年3月15日から保証料率の上乗せにより経営者保証を提供しないことを選択できる信用保証制度等が開始されました。

そこで今回は、『経営者保証を提供しない3つの制度!』について、書きたいと思います。

1.事業者選択型経営者保証非提供制度

<要件>

次の要件のいずれにも該当すること(*)

過去2年間(法人の設立日から2年経過していない場合は、その期間)において決算書等を申込金融機関の求めに応じて提出していること
直近の決算において代表者への貸付金等がなく、かつ、代表者への役員報酬、賞与、配当等が社会通念上相当と認められる額を超えていないこと
直近の決算において債務超過でない(純資産の額がゼロ以上である)こと又は直近2期の決算において減価償却前経常利益が連続して赤字でないこと
上記①及び②については継続的に充足することを誓約する書面を提出していること
中小企業者が、保証料率の上乗せにより保証人の保証を提供しないことを希望していること

(*)法人の設立後最初の決算が未了の者の場合にあっては①から③までに掲げるものを、法人の設立後最初の2期分の決算が未了の者にあっては③に掲げるものをそれぞれ除く。

<保証料率>

  • 上記の③の要件の両方を満たす場合

信用保証協会所定の保証料率に0.25%上乗せ

  • 上記の③の要件のいずれか一方を満たす場合又は法人の設立後2事業年度の決算がない場合

信用保証協会所定の保証料率に0.45%上乗せ

<保証人>
不要
<対象となる保証>
無担保保険(限度額8,000万円)に係る保証など。
<その他>
原則として、本制度を適用する個別の保証制度等の取扱いに準じる。

2.事業者選択型経営者保証非提供促進特別保証制度

<要件>
前記1.と同じ。
<保証限度額>
8,000万円セーフティネット保証(4号・5号)の場合は、別枠で8,000万円
<保証期間>
・一括返済の場合:1年以内・分割返済の場合:10年以内(据置期間は1年以内)
<保証料率>
前記1.と同じ。
<保証料補助>
保証申込日に応じて、次の補助率に相当する額を国が補助します。

  • 2024年3月15日~2025年3月31日の保証申込分 補助率 0.15%
  • 2025年4月1日~2026年3月31日の保証申込分 補助率 0.10%
  • 2026年4月1日~2027年3月31日保証申込分 補助率 0.05%
<保証人>
不要
<取扱期間>
2027年3月31日まで

3.プロパー融資借換特別保証制度

<要件>
以下の全ての要件を充足する法人

資産超過であること
EBITDA有利子負債倍率(*1)が15倍以内であること
法人・個人の分離がなされていること
申込日(*2)において返済緩和している借入金がないこと

(*1)EBITDA有利子負債倍率=(借入金・社債-現預金)÷(営業利益+減価償却費)

(*2)危機関連保証又はSN保証4号(新型コロナ)の指定期間内の場合は、指定期間の始期の前日でも差し支えない。

<対象資金>
借換資金(プロパー融資のうち、経営者保証を提供している事業資金の借換えに限る。)
<保証限度額>
保証限度額:2億8,000万円(組合等4億8,000万円)申込金融機関における保証限度額は、プロパー融資のうち、経営者保証を提供していない残高の範囲内。
<保証期間>
  • 一括返済の場合:1年以内
  • 分割返済の場合:10年以内(据置期間は1年以内)
<保証料率>
0.45%~1.90%
<保証人>
不要
<取扱期間>
2027年3月31日まで
<その他>
申込金融機関において、次のいずれかの要件を満たす必要があります。

  • 経営者保証を不要とし、かつ、保全のないプロパー融資を実行すること
  • 経営者保証を提供している既往のプロパー融資(本制度による返済部分を除く。)の全部又は一部について経営者保証を解除し、かつ、解除したプロパー融資については保全がないこと

4.最後に

経営者保証を提供しなくてすむ制度が色々とできましたので、ふさわしいものを使っていただきたいですね。

個人的には、普段から会社の状況を見て減価償却費を入れたり入れなかったりしていますが、減価償却前経常利益で考えれば良いということを改めて認識しました。

2024年4月24日 國村 年

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2024年3月号『経営セーフティ共済制度の不適切な利用への対応!』

弊事務所でも、小規模企業の経営者・役員や個人事業主の方の退職金の積立のため、法人や個人事業主の方の取引先事業者が倒産した際に連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐため、小規模企業共済や経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)の加入をお勧めしています。

ところが、中小企業庁によると、経営セーフティ共済については、制度の趣旨からかけ離れた税制上の優遇措置のみを加入の決め手としている者が多く、経営セーフティ共済による節税を指南する事例も数多く存在するようです。

そこで今回は、『経営セーフティ共済制度の不適切な利用への対応!』について、書きたいと思います。

1.加入・在籍状況(令和4年度末現在)

平成23年10月に掛金積立限度額を増額(320万円→800万円)して以降、共済金貸付の発生は減少傾向にあるにも関わらず、加入が急増しています。

2.任意解約による脱退状況(令和4年度)

解約手当金の支給率が100%となる、加入後3年目、4年目に解約が大きくなっていますが、近年その傾向が特に顕著になっており、直近では約33%が3年目、4年目に解約している状況です。

解約してすぐに再加入する行動変容が発生しており、加入・脱退の増加の一因になっています。

3.短期間で繰り返される脱退・再加入

加入者全体のうち再加入者は約16%で、再加入者のうち2年未満に再加入する者は約8割を占めています。

脱退・再加入は、積立額の変動により貸付可能額も変動することとなり、連鎖倒産への備えが不安定となるため、本来の制度利用に基づく行動ではありません。

4.節税を目的とした加入とそれを指南する情報源

加入者へのアンケートでは、共済への加入理由として、「税制上の優遇措置があるため」を理由とする回答が約3割となっています。

このうち、税制上の優遇措置のみを目的としたものが約2割となっており、約2割~3割が節税目的による加入と推定されます。

ホームページやYouTubeなどのインターネット上や書籍・雑誌でも、専ら節税をアピールして共済への加入を勧めるページが数多く存在しています。

5.令和6年度税制改正大綱

令和6年度税制改正大綱において、経営セーフティ共済契約の解除があった後に経営セーフティ共催契約を締結した場合には、その解除の日から同日以後2年を経過する日までの間に支出する経営セーフティ共済契約に係る掛金については、損金算入ができないこととされました(法人税・所得税にともに。)。

なお、上記改正は、令和6年10月1日以後の共済契約の解除について適用されます。

6.最後に

最近、節税手法があると、課税当局も研究しており、すぐに防がれる傾向にあります。

SNSとかを見ていても、節税をうたっている広告は想像以上に多いですので、安易に飛びつかず、慎重に検討したいですね。

2024年3月25日 國村 年

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事務所通信2024年2月

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2024年2月号『不動産を譲渡した場合の取得費!』

現在、確定申告シーズンで、不動産を譲渡した方の取得費の算出に悪戦苦闘中です。

普段は、取得費が分からず、売った金額の5%相当額を取得費とすることが多く、もったいないぁなと思うことが多いのですが、取得費が分かるケースでも、簡単ではないケースもあるのです。

そこで今回は、『不動産を譲渡した場合の取得費!』について、書きたいと思います。

1.取得費となるもの

譲渡所得は、土地や建物を売った金額から取得費と譲渡費用を差し引き計算します。

取得費には、売った土地や建物の購入代金、建築代金、購入手数料のほか設備費や改良費なども含まれます。

その他、以下のようなものが含まれます。

土地や建物を購入(贈与、相続または遺贈による取得も含む。)した時に納めた登録免許税(登記費用も含む。)、不動産取得税、特別土地保有税(取得分)、印紙税
借主がいる土地や建物を購入する時に、借主を立ち退かせるため支払った立退料
土地の埋立てや土盛り、地ならしをするために支払った造成費用
土地の取得に際し支払った土地の測量費
所有権等を確保するため要した訴訟費用
建物付の土地を購入して、その後概ね1年以内に建物を取り壊す等、当初から土地の利用が目的であったと認められる場合の建物の購入代金や取壊しの費用
土地や建物を購入するために借り入れた資金の利子のうち、その土地や建物を実際に使用開始する日までの期間に対応する部分の利子
既に締結されている土地等の購入契約を解除して、他の物件を取得することとした場合に支出する違約金

2.取得費が分からないとき

売った土地建物が先祖伝来のものであるとか、買い入れた時期が古い等、取得費が分からない場合は、売った金額の5%相当額を取得費とすることができます。

また、実際の取得費が売った金額の5%相当額を下回る場合も、売った金額の5%相当額を取得費とすることができます。

3.取得費を算出する際に苦労する点

現在、かなり悪戦苦闘中です。

なぜなら、取得したのが、明治時代、大正時代、昭和初期のものが多く、契約書や登記簿謄本等が手書きのものが多いため、達筆で読めないものが多々あるのです。

『卅(さんじゅう)』とか見たことのない漢字もありますし、『壱』『弐』『参』『拾』等も結構読み取りにくいケースがあります。

そして、今では面積は『㎡』で書かれていますが、古いものは、『反(たん)』『畝(せ)』『歩(ぶ)』『坪』等の記載もあり、換算が必要になってきます。

あとは、現在では建物と土地を購入した場合、消費税額から建物と土地を分けることができるのですが、消費税導入(平成元年4月1日)以前はそれができないのです。

4.最後に

今回、色々と調べる中で、CASIOのkeisanというサイトが非常に役立つことが分かりました。

取得費の算出にぜひ使ってみて下さいね。

2024年2月28日 國村 年

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事務所通信2024年1月

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2024年1月号『税務署で受付印を押印してくれなくなる!』

弊事務所では、法人の法人税・消費税・地方税、個人の所得税・消費税・贈与税の申告は、基本的に電子申告しています。

ただし、相続税は、相続人がお一人でない限りは紙で提出し、控えに税務署で受付印(収受日付印)を押印してもらっています。

ところが、2025年から、税務署で受付印を押印しないようになるようです。

そこで今回は、『税務署で受付印を押印してくれなくなる!』について、書きたいと思います。

1.申告書等の控えへの収受日付印の押なつの見直し

国税庁は、納税者の利便性の向上等の観点から、「あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる社会」を目指し、申告手続等のオンライン化、事務処理の電子化、押印の見直し等、国税に関する手続や業務の在り方の抜本的な見直し(税務行政のDX)を進めています。

こうした中、e-Tax利用率は向上しており、今後もe-Taxの利用拡大がさらに見込まれることや、DXの取組の進捗も踏まえ、国税に関する手続等の見直しの一環として、2025年1月から、申告書等の控えに収受日付印の押なつを行わないことにしました。

ここで、対象となる「申告書等」とは、国税に関する法律に基づく申告、申請、請求、届出その他の書類のほか、納税者の方が、他の法律の規定により、もしくは法律の規定によらずに国税庁、国税局(沖縄国税事務所を含む。)、税務署に提出されるすべての文書をいいます。

2.申告書等の提出事実及び提出年月日の確認方法

今後は、申告書等の提出事実・提出年月日の確認を以下の方法で行うことになります。

●e-Taxによる申告・申請手続

e-Taxで申告等データの送信が完了した後、送信されたデータの受信通知(申告書等を提出した者の氏名または名称、受付番号、受付日時等を確認することができます。)がメッセージボックスに格納されます。

●申告書等情報取得サービス(オンライン請求のみ)

所得税の確定申告書、青色申告決算書及び収支内訳書について、書面により提出している場合であっても、PC・スマホからe-Taxを利用してPDFファイルを無料で取得することができます。

●保有個人情報の開示請求(法人は除く)

税務署が保有する個人情報に対する開示請求により、提出した申告書等の内容を確認することができます。

●税務署での申告書等の閲覧サービス

税務署の窓口で、ご自身が過去に提出した申告書等を閲覧することができます。

●納税証明書の交付請求

納税証明書の交付請求を行うことにより、確定申告書等を提出した場合の納税額、所得金額または未納の税額がないことの証明書を取得することができます。

3.最後に

当分の間は、『リーフレット』に日付や税務署名を記載するようですが、受付印の押印はなくなることは知っておきたいですね。

2024年1月30日 國村 年

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事務所通信2023年12月

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2023年12月号『対策は定期的に見直しを!』

独立開業してから書籍を3冊(すべて共著)出版していますが、すべて中央経済社から出版しています。

中央経済社が新社屋に移転したこと、コロナ禍でしばらく訪問できていなかったことから、先日、東京に行った際に訪問してきました。

その際に、対策は一度やれば終わりではないということを改めて感じました。

そこで今回は、『対策は定期的に見直しを!』について、書きたいと思います。

1.中央経済社の応接室から眺め

先日、東京に行った際に、今年新社屋に移転した中央経済社に訪問しました。

応接室に案内され、担当者が来られるまで、窓から外を眺めていました。

東京都千代田区の神保町駅のすぐ近くにあるのですが、10階建て以下の事務所などが入っている古いビルが周りにはたくさん建っています。

眺めていると、最上階は、おそらくビルのオーナーが住まれているだろうと思われるビルだらけでした。

その時、僕は思いました。

この辺りのビルは、相続税対策で建てられたのだろうけど、・・・と。

以前は、ビルとかマンションの最上階に住み、それ以下の階を賃貸していると、土地の全部について小規模宅地等の特例のうち居住用とされ、240㎡までは80%の減額を受けることができたため、相続税対策として、ビルやマンションを建て、その最上階に住むということが、行われていました。

ところが、その後税制改正が行われ、居住用部分と賃貸用部分を分けて考えるようになり、節税効果が薄れることになりました。

2.節税対策の封じ込め

課税当局も節税対策を研究しているものと思われますが、ここ数年、節税対策が封じ込まれる傾向にあります。

例えば、以下のようなものがあります。

タワーマンション

海外不動産

一般社団法人

家なき子

類似業種比準価額

足場レンタル

ドローンレンタル

LEDレンタル

法人保険

3.対策は定期的に見直しを!

上記のように、一度対策したとしても、その後税制改正により、対策の効果が薄れてしまったり、効果がなくなったりするケースがあります。

あとは、コロナ禍を経て、会社やご自身の環境が大きく変化したり、路線価が大幅に変動していることもあるかもしれません。

税制改正は毎年行われるわけですから、一度対策を行えば終わりというわけではなく、情報をキャッチアップし、定期的な見直しが必要となってきます。

4.最後に

2023年からは、生前贈与加算及び相続時精算課税制度の見直しが行われたりしますので、相続税対策の見直しに良い時期かも知れませんね。

2023年12月25日 國村 年