事務所通信2015年5月

事務所通信

2015年5月号 『税理士の節税策の報告義務』

 記帳・決算・申告業務しかしない税理士もいると思いますが、僕自身は、税理士としての仕事の一つだと考えていますので、クライアントにとって良い節税策があれば、当然提案します。
 今般、政府は、税理士に企業の節税策に報告義務を課す検討を始めたようです。
 そこで、今回は、『税理士の節税策の報告義務』について書きたいと思います。

1. 現状
 日本経済新聞によると、政府は税理士に対し、企業に提供している節税策の報告を2017年度にも義務づける検討に入ったようです。
 多額の税収減につながる節税を対象にし、報告を拒む場合は罰金も検討するようです。
 過度な節税への牽制効果を見込み、税収減や企業間の不公平を和らげることが目的のようです。
 また、企業の租税回避の防止へ国際的な枠組みが整備されつつあることを踏まえ、欧米などと足並みを揃えるようです。

2.改正時期
 与党の税制改正の議論を経て、早ければ2017年の通常国会で関連法を改正するようです。
 節税策を作る税理士やコンサルティング会社に加え、節税策の提供を受ける企業も報告義務の対象になる可能性があります。
 税理士には顧客企業のリストの提出を求めることも検討するようです。

3.海外の状況
 米英や韓国などは、既に当局への報告を義務づけています。
 日米欧などが加盟する経済協力開発機構(OECD)は今年9月にまとめる企業の節税への対抗策のなかで、日本などにも義務づけを呼びかける見通しです。
 主要7カ国(G7)が5月27日から独ドレスデンで開く財務相・中央銀行総裁会議でも、企業の租税回避をどう防ぐかが主要な論点になるようです。

4.報告の対象
 政府は今後、どんな節税策を報告の対象にするかを詰めます。
 節税策で代表的なのがグループ会社から損失を移したり、航空機のリース費用を複数の会社で分けたりして利益を意図的に減らす損失取引という手法ですが、1年間で億円単位の損失を意図的に作り出すような節税策が報告の対象(例えば、米国では、年間1千万ドル(約12億円)以上の損失を出す取引などが対象)になりそうです。
 節税策を提供する税理士に企業が割高な報酬を支払っていたり(例えば、米国では、税理士が企業から25万ドル(約3千万円)を超える報酬を得た場合が対象)、企業が提供を受けた節税策を他社に伝えないよう守秘義務を負っていたりする場合にも報告を求める見通しです。

5.最後に
 税務上、節税・租税回避・脱税という言葉がよく用いられますが、節税は、税法上認められた範囲内で行われる行為です。
 よって、本来、規制されるべきではありませんし、節税策を考えるのが税理士の仕事だと考えます。
 それなのに、政府は、報告を受けた節税策の情報をもとに法制度を手直しし、節税策を防止しようとしていますが、そのスタンスはいかがなものなのでしょうか。

2015年5月26日 國村 年

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